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Interview

専門家インタビュー

野澤桂子先生 - インタビュー3

がんの治療後に社会復帰をする際に、心がけたいことや、お悩みを解決するための対処法について、
国立がん研究センター中央病院 アピアランス支援センター長の野澤桂子先生にお話をうかがいました。
 

外見の悩みの本質は、コミュニケーションの悩み。

社会復帰を考えている患者さんは、どんな不安を抱えていらっしゃるのでしょうか。

以前は、がんになったら治療に専念するのが当たり前でしたが、現在のがんの治療は、社会生活を営みながら続けるものだという認識が広まってきました。治療にはお金がかかるため、仕事を続けざるをえないという経済的な理由も背景にあります。

社会復帰を考えている患者さんは、再発に対する不安とともに、しっかりとした社会人でいたいという思いをあわせもっています。また、多くの患者さんが、性別や年齢を問わず、アピアランス(外見)について悩まれています。

野澤桂子先生 - インタビュー4

アピアランスの悩みとは、どのようなものでしょうか。

外見の変化としては、痩せる、顔色が悪い、脱毛などのほかに、手術後の傷あと、肌荒れ、肌の変色、爪が変色したり割れたりすることなどが挙げられます。脱毛とひとことで言っても、症状のあらわれ方は人それぞれで、髪がすべて抜けることもあれば、2割だけ抜けることもあります。でも、患者さんが悩んでいるのは、外見の変化それ自体ではないのです。これは研究でわかってきたことですが、外見の変化に伴い、まわりの人と対等な関係でいられなくなるなど、関係性が変わってしまうことが不安なのです1)。

実際、脱毛された患者さんからお受けするウィッグ(かつら)のご相談でよくあるのが、ウィッグ自体の話は5分で済んで、その後1時間ほど、人間関係も含めた仕事への復帰についての話になるケースです。患者さんが見ているのはウィッグではなく、その先にある関係性であり、本当に望まれているのは、以前と変わらず社会や人とつながることなのです。外見の悩みとは、コミュニケーションの悩みだと言ってもいいかもしれませんね。

社会復帰するときに、どんな心がまえでいればよいでしょうか。

仕事への復帰であれば、一定期間休んでいた人が戻ってくるわけですから、がんであることを知らない職場の人たちは「きっと何かあったのだろう」と思っているでしょう。復帰して間もない頃は、多少の緊張感がある、ちょっとしたお見合い状態のような雰囲気になるかもしれません。そんな状況で、「前はあんな人ではなかったのに」というようなネガティブな印象を与えることは、良好な人間関係のためにはできれば避けたいものです。そのための心がまえとして、3つのポイントを実践することをおすすめしています。

仕事に復帰したときに
実践したい3つのポイント

①以前と同じ態度で仕事をする
②受け答えも以前と同じようにする
(急につっけんどんになったり、深刻そうな態度をとったりしない)
③みんなが笑っていたら自分も笑う

時短勤務になるなどの変化はあるかもしれませんが、勤務時間中は以前と同じ態度で仕事をしましょう。そもそも、職場は仕事をするための場所です。復帰前と変わらず仲間を信頼できて、仕事がまわりさえすれば、多少外見が変わっていても、まわりの人は特に大きな関心はもちません。外見の変化が話題になったとしても、せいぜい半日ぐらいでしょう。

受け答えも以前と同じようにしていれば、復帰した後も、患者さんの内面に大きな変化がないことを理解してくれるはずです。会話中にたまたま考えごとをしていて笑わなかっただけで、まわりの人は「何かまずいことを言ったかもしれない」と思うかもしれないので、笑顔を心がけるとよいでしょう。これらを実践していれば、対等な関係を維持しやすくなります。あなたが反対の立場だったらどうか、想像してみましょう。休んでいた、信頼できる仕事仲間が戻ってきたら、うれしいはずです。

情報を集めるときは、その情報源に注意を。

外見に関する情報を集める際には、どんなことに注意が必要でしょうか。

情報は世の中にあふれていますが、誤りが含まれていたり、医学的な根拠がなかったりするものも多くあります。その情報が信頼できるかどうかを見きわめるには、情報源を確かめることが大切です。公的な機関から発信されている情報は、おもしろみに欠けると感じられるかもしれませんが、信頼性は高いと考えられます。一方で、広告の中には信頼性が高くないものが含まれています。

野澤桂子先生 - インタビュー5

使用するグッズによって、体への影響に差がつくことはないのでしょうか。

値段が高ければ、それだけ質も高いはずだという錯覚におちいりがちですが、少なくとも値段が高ければ体によいという科学的根拠はありません。楽しみや趣味として、高級なものを使うことは問題ありませんが、高額な商品の広告には特に注意が必要です。

問題が起きたときに、使用するグッズと無関係のことでもグッズのせいだと思ってしまうのは、よくある錯覚です。たとえば、脱毛前の時期は多くの人が、頭皮がピリピリすると感じます。それなのに、以前から使っていたシャンプーが体にあわなくなったせいだと考え、新しいシャンプーに買いかえようとする患者さんは少なくありません。また、脱毛後には薬の影響で、頭に湿疹ができることがあります。これは薬疹と呼ばれるものですが、ちょうどウィッグをかぶり始めた時期と重なると、ウィッグが肌にあわないせいだと考えてしまう患者さんもいらっしゃいます。問題が起きたときは、何が原因なのかを確かめる必要があります。
 

がんであることは、人に言わなくていい。むしろ、上手に利用を。

アピアランスの悩みとして、ほかにはどのようなものがあるでしょうか。

以前と同じように社会生活を送るために、ウィッグなどで外見の変化をカバーすることを、がんを隠しているようで後ろめたいと感じる患者さんがいらっしゃいます。でも、そのように思う必要はありません。そもそも病気のことは重大なプライバシーなので、人に言わなくていいことです。ほかの患者さんがカミングアウトされているからといって、言わないことを後ろめたく思う必要はないのです。たとえば離婚した人が、それをわざわざ無関係の人たちに言わないですよね。それなのに、がんのことだけは言わなくてはいけないと思うのは、冷静に考えればおかしいとわかるはずです。

野澤桂子先生 - インタビュー6

がんであることは、むしろ上手に使うことをおすすめしています。会いたくない人がいたり、大変そうな仕事があったりしたときは、体調や治療を理由にして断っても問題ありません。就職活動中の若い患者さんであれば、役員面接まで進んだら「トライアスロン級の治療をしました」などと、多少おおげさにアピールしてもいいでしょう。

職場のほかで、まわりの人たちとの関係で悩まれる患者さんはいらっしゃるでしょうか。

「外見や治療の経過についてあれこれ聞かれると思うと、知り合いの集まりに行きたくても行けない」という患者さんがいらっしゃいました。その方には、もし聞かれたら「『体によくないので、病気のことは考えないようにしなさい』と病院の先生に言われたので話せない」と言うように伝えました。自分だけで抱え込まず、私たち病院のスタッフのせいにしてくれれば、それでいいのです。その患者さんは、まわりの人に実際にそのとおり言ったところ、それ以来聞かれなくなったそうですよ。

外見の変化を気にしているのに、がんの治療をしたことを知っているまわりの人から「命が助かったのだから、それでいいじゃない」と言われて、つらい思いをした患者さんもいらっしゃいます。命に直結しないからといって、外見の悩みを抑え込む必要はありません。がんの患者さんは、外見のことで悩んでいいのです。
医療者による、アピアランスに悩む患者さんのサポートは、まだ十分ではないと私は考えています。社会や人とつながるために、患者さんが希望するかたちで社会復帰できるよう、医療者への教育を含め、より一層のケアをしていきたいと思います。

 

仕事に復帰したときに実践したい3つのポイント

がんのことは基本的に人に伝える必要はありませんが、親しい人に自分の考えを知ってほしいと思うこともあるかもしれません。そんなときは、聞き手の気持ちにも配慮できるとよいでしょう。病気に関することを突然聞かされると、相手はとまどってしまう可能性があります。そこで最初に「あなたには聞いてほしいから話すけれど」というような言葉を挟むだけで、相手も聞く前に心の準備ができます。対等な関係でいたいことを知ってもらうために「聞いてもらうかわりに、ご飯ごちそうするね」と付け足したり、相手が具体的にできることを一緒に伝えたりするとよいでしょう。
以前は飲み会に誘ってくれた友人でも、がんであることを知り、遠慮して誘うのを控えることがあります。その場合はたまたま通院日と重なったり、体調が悪かったりして断らざるをえなくなることを考慮して、最初から「治療があるので10回のうち1回しか出られないかもしれないけれど、めげずに誘ってね」という伝え方をすれば、相手も気楽に誘いやすくなります。相手の立場になって考えるというのが、コミュニケーションをうまくとるためのコツだと思います。

野澤桂子先生 - インタビュー7
1)野澤桂子,藤間勝子,清水千佳子,飯野京子:化学療法により乳がん患者が体験する外見の変化とその対処行動の構造.国立病院看護研究学会誌,11(1): 13-20, 2015.