悩んだときに役立ついろいろな方法を専門家がご紹介します
特集 がん&食べる(後編)
がん患者さんの多くが「食について悩むことはたくさんあるけれど、専門家に相談した経験はない」と言います。
そこで、今回は、管理栄養士であり、未来の管理栄養士を育てている宮内眞弓先生に「食事で悩んだときに使えるあの手!この手!」を教えてもらいました。
(後編)は味覚障害、食事バランスなどについてです。
今回の専門家
宮内 眞弓(みやうち まゆみ)先生
「管理栄養士は、患者さんの食の悩みに対しての声を聞き、一緒に考える役割を担っています。今回は、治療でつらいときに、少しでも食事が口にできたり、負担を減らしたり、楽しく食事ができるために、どうしたらいいのかを考えて提案してみました。ご自分に合うものがありましたら、ぜひ取り入れてみてください」。
東京聖栄大学健康栄養学部管理栄養学科長
女子栄養大学を卒業後、国立大学に入職。その後、10か所の国立大学に勤務後、2015年に国立がん研究センター栄養管理室長に就任。2016年より現職。
味覚障害があるときは
食前と毎日の口腔ケアがおすすめ
「味がわからない」とか、「何を食べても苦味を感じる」といった味覚の障害があるときは、食事前に口の中の嫌な感じを少しでもなくすことで、そのあとの食事が少し進むようになることがよくあります。
たとえば、食前に氷を舐めるとよいという人がいました。口の中がすっきりと気持ちよくなるそうです。製氷皿のひとマスごとにミントの葉を入れてから水を注ぎ、凍らせて作るミント氷も、口に含むと清涼感をより感じることができるのでおすすめです(3週間くらいで使い切りましょう)。
食前に歯磨きや、液体タイプのマウスウォッシュで口の中をきれいにする、という人もいます。
どの方法も、刺激やにおいの感じ方などによって、好みが分かれますので、自分が心地よいという方法を探してみましょう。
また、欠かさずに毎日おこなって欲しいのは、口腔内の汚れを落とす口腔ケアです。特に舌や硬口蓋(上あごの硬いところ)、頬粘膜(頬の内側)の汚れは、いつもの歯磨きだけでは落ちないので、舌専用のブラシや、口腔ケア用のスポンジ、ガーゼなどを使ってしっかりと落とします。口の中をきれいにしておくことで、味の感じ方も変わってきます。
*氷を作るときは水道水を使いましょう。
食べられないことや味覚障害が気になる外食時は
お店の人に量や味の調整が可能かを聞いてみる
食べられる量が減っていたり、味覚障害があったりするときは、外食がストレスになることもあるでしょう。でも、せっかくの友人とのランチや、家族での会食だから出かけたいと思ったときは、食事をするお店の人に事前に、またはお店でオーダーするときに、自分の体調のことを伝えて、食事についてリクエストをしてみてはいかがでしょうか。
たとえば、「私の分は量を少なめにしてください」というリクエストであれば、多くのお店が応えてくれるでしょう。量を減らすことができない場合は「残ったものを持ち帰りたい」とリクエストをすれば、最近ではテイクアウトができるお店も増えたので、応えてくれるかもしれません。
味については、「自分の分だけ少し味を濃いめにしてもらえないか」といったリクエストにも応えてくれるお店はあるようです。これは、事前に確認をしましょう。
訪ねる前にお店のホームページにあるメニューから、自分が食べられそうなものを選んでおいたり、お店の人にお料理の味について確認しておいたりするのもおすすめです。
あとは、一緒に食事をする方々に、今、自分が治療中であることと、「あまり量が食べられないんです」とか「味を濃くしないと食が進まなくて……」などと具体的な状態を、もしも伝えることができるようなら、先に伝えておくことで、食事中のストレスが軽減されて、より一層皆さんとの時間を楽しむことができるでしょう。
作ること、食べることを応援してくれる
グッズや宅配、テイクアウトを利用する
お料理をする気になれないときは無理をせずに、宅配を利用したり、お店からテイクアウトしたり、スーパーマーケットのお惣菜を利用したり、冷凍食品を使ったりして、体を休めるようにしましょう。最近ではコンビニエンスストアの冷凍食品の品数も多く、遠くのスーパーマーケットよりも近くのコンビニエンスストアで買い物を済ませることもできるかもしれません。
調理ができるくらいに回復してきたら、食事を楽しく楽にするために、手ごろなグッズを使ってみませんか? たとえば、手の力が入りにくい人には、菜箸よりもトングが使いやすいかもしれませんし、ボトルオープナーも便利です。カーブのついたハサミを包丁がわりに使えば、握力が落ちていても肉も野菜も切りやすく、またまな板も汚さず、後片付けが楽になります。
シンクの手前にクッションや寄りかかれる便利なグッズを置くと、調理中や洗い物をするときにはそこに寄りかかりながらできて体が楽、という人もいます。
100円ショップに行くと、ゴボウやニンジンがさっと千切りにできるピーラーがあって、私はこれを使ってみたらきんぴらを作るのが楽になりました。このような便利グッズを見つけることも楽しいですし、これがあることで「あの料理を作ってみようかな」という気持ちになれることもあります。
食べることがつらいままでは、体も心も落ち込んでしまいそうです。少しでも食べることが楽しくて、また料理が楽しくて、食事が楽しみになるように、ときにはテイクアウトを利用したり、グッズを利用したり、いろいろなものを上手に使っていきましょう。
一食でのバランスが気になるときは
ランチ皿が便利!
主食(ご飯、パン、麺類など)、主菜(肉、魚、卵、大豆・大豆製品)、副菜(野菜、海藻類)を、一回の食事でバランスよく摂ることが、体づくりのために大切ですが、なかなかバランスよくというのは難しいものです。そこで、よくおすすめするのがランチ皿の利用です。3つのスペースに分かれているものが手に入りやすいでしょう。一番広いスペースに主菜を、小さめの二つのスペースには主食と副菜(できれば煮物とお浸し、サラダと和え物というような2種類の組み合わせ)を入れます。そして、たとえば主菜のスペースが空いていたら、豆腐や納豆などをプラスしましょう。副菜を入れるスペースが空いていたら、生野菜を足したり、野菜入りの味噌汁をお椀に入れてのせたりしましょう。この3つのスペースが空くことなく一食を食べるようにしていると、主食、主菜、副菜をバランスよく摂る癖がついてきます。
取材日:2021年10月5日
編集・取材・執筆:早川景子
イラスト:宇田川一美
監修:東京聖栄大学健康栄養学部管理栄養学科長 宮内眞弓 先生
掲載:2021年12月1日